かくれんぼ




「千尋、千尋・・・」

夢の中でハクの声がする。
会いたくてたまらない。
いつかまた会える、そう信じて、あの時、彼の手を離した。

『振り向いてはいけない』

そう言われて、振り向かなかった。
本当は振り向きたくて、ハクと別れがたくて、戻りたい気持ちが大きくて、
それでもまたいつか会える、というハクの言葉が信じられたから、振り向かなかった。

トンネルを抜け、振り向いた時、私とハクの隔たりを感じた。
なんだかもう二度と会えないような気がして、それでも彼の言葉を信じたくて、

そして時は流れた。

ハクに会えるのは夢の中だけ。
そして夢の中の私はいつもあの時のまま・・・。
そしてハクもあのときのまま・・・。
私の夢の中で、私とハクは年も取らず、ずっとあの時を過ごしている。

「千尋、早く起きて。ボランティアに行くんでしょう?いつまでもぐずぐずしないで。」

お母さんの声が階下から聞こえる。

そうだった。
私は今日、日曜日だけど学校のボランティア活動に行かなくちゃいけない。

もう何度もハクの夢を見た。
この夢を見るたび、いつも泣いた涙の跡が残っている。
身体が強張っていて、ベッドの中でゆっくりと手足を伸ばさないといけない。
そしてベッドサイドの目覚まし時計を見て驚く。
7時20分!
7時38分のバスの乗らなくちゃいけないのに!
今日は日曜だからこのバスを逃すと、完全に遅刻だっ!
いくらボランティアだからっていっても、遅刻はやばいよっ!
朝御飯を食べる時間もないっ!

あわててベッドから下りて、階下にある洗面所へと向かう。
急いでいるから足音もつい、高くなってしまう。
その様子にお母さんが眉を顰めるけど、構ってなんかいられない。

身支度を整えて、家を出る。
高台にあるうちのすぐそばからバスがでている。
走ってバス停に着くと、ほどなくバスが来ていつものように乗車する。
日曜だから今日は乗客も少なくて、めずらしく座席に座ることが出来た。
バスに揺られて、外の景色を見つめる。

途中あの道の側を通りかかる。
あの道のむこうにトンネルがあって、私たちはあのトンネルをくぐったはずなのに、どんなに探してもあのトンネルのある建物は二度と見つからなかった。

神隠し。
私たちは1年もの間姿を消していたらしい。
1年後のその日に再びこちらの世界に帰ってきた。
お父さんもお母さんも何があったのか覚えていなくて、あの時の出来事は私の心の中だけに存在してる。

お父さんとお母さんに内緒で、何度もあのトンネルの入り口を探した。
もう一度あの世界に戻りたかったわけじゃない。
ただ、ハクに会いたかった。
ハクがあのトンネルから出てくるんじゃないかと、
だからあのトンネルを何度も何度も探した。
それでも私は二度とあのトンネルを見つけることは出来なかった。

あの日以来、私は無口な少女になっていた。
神隠しなんてあったせいで、まわりは薄気味悪い眼差しで私を見るし、1年もの間いなかったせいで、みんなより1学年遅れてしまったし。
気にしてるわけじゃない。
ううん、やっぱり気にしてる。
でもね、ハクに会えたら、きっとあの出来事は本当だったと信じられて、自分に自信を持てそうな気がするの。
あそこで教えられた勇気が自分の中の真実となるような気がするの。
ねえ、ハク?聞こえてる?
会いたいよ、ハクに。

駅前でバスを降り、駅のホームへ向かう。
私の通う高校は私たち家族が以前住んでいた町、となり町にある。
通学に1時間かかるけど、それでも私はあの琥珀川のあったとなり町に執着した。
もちろん、今はその川はないけれど、琥珀川のあったマンションの近くを通るたび胸が痛むけれど。
ハクに繋がるものが少しでも欲しくて、いつものように私はそのマンションの横を通り過ぎる。

学校に着くと今日のボランティア活動は地域の清掃だった。
この学校には、以前からの友人もたくさんいて、神隠しに会ったという、私の噂が広まっているにもかかわらず、みんな何も聞かなくて、優しくて居心地がいい。

1ヶ月に一回、有志が集まってはこうしてボランティア活動をする。
あの世界で、産業廃棄物に苦しめられた神様を見てしまったから、少しでも神様を助ける力になりたくてこうして参加している。
ボランティア活動には班が決められていて、竹箒を片手に町の中にみな散らばってゆく。

「千尋、私たちの清掃場所、ここだよ。」

友達の麻衣子がコピーされた地図を見せてくれた。

「メゾン琥珀?」

一瞬ドキリとした。
こんなマンションあったっけ?

「ここ、最近出来たマンション群だよね。ほら、マンションに囲まれるように公園があるでしょ?ここの公園の清掃が今回の仕事だよ。」

麻衣子にそう言われて、よく見ると、あ、確かにマンションが取り囲むようにして公園があり、そこが蛍光マーカーでピンク色に塗られている。

7人ほどのグループでそれぞれ、ゴミ袋や、竹箒を手に目的地へと向かう。
あのマンションから少し離れたところに、確かにマンション群があった。
公園に入って私たちは驚いた。

ボランティアの清掃が必要ないほど、とてもきれいだったのだ。
ゴミひとつ落ちていない。

「これはまた・・・」

班の一人がつぶやいた。

「あれでしょ?マンションの管理会社が清掃してるんじゃないの?」

麻衣子が笑った。
班のみんなも苦笑している。
けれども私には笑えない。
キレイな公園ではあったけれど。
人もたくさんいるけれど。

わたしは・・・!

見つけてしまった。
だってあれは・・・!


公園の真中に人工の小さな小川が流れている。
日曜ということもあって小さな子供たちがその川の流れで遊んでいる。
芝生のところどころに、大人の膝下くらいの小さな石像がところどころにある。

そう、ここはあの世界の雰囲気を確かに持っている!

ハク・・・!

心の中で叫んでみる。

でも、当然ながらハクは現れない。
わかっていても涙が出そうになった。

「ハク・・・」

声に出してしまったらしい。

「千尋?どうしたの?」

私の様子はかなり変だったに違いない。
麻衣子の気遣うような声が聞こえたけれど、私は持っていた竹箒をその場に落とし、公園の中へと入っていった。

「ハク・・・?ハク・・・!」

いるんでしょう、ハク?
お願い出てきて。
あれは夢ではなかったと、あの時の約束は違えられなかったと言って。

小川の流れに沿って、大きなアスレチックの遊具の向こうに回る。
遊具の真中のトンネルがあって。

「千尋。」

ハクの声が聞こえる。
ハクがいる!
私を見て笑っているハクがいる!

会いたかった。
あなたの声が聞きたかった。
あれは夢ではなかったんだね。
あなたは確かにここにいる。

「ハク!」

私はハクに抱きつく。
ハクに抱きとめられて。
私の背中に回される優しい腕の温かさを感じる。
あなたはここにる!






私はあの時の少女の姿で、
ハクは別れたあの日の姿で。


ーーみーつけたっ!






2001.9.20


★あとがき
(; ̄ー ̄A アセアセ・・・どどどどど、どーしようっ!書いちゃったよっ!
ハク×千(爆!)

おまけにハッピーエンド?ってな内容だし。(ああああっ!←苦悩する図)
だってえええ!!資料がないんだもんっ!パンフも買ってないし!(この日、お財布に2000円しかなくて、交通費+映画チケット代+劇場内で飲んだコーヒー代で、残り400円しかなかったのおお!!いいのよっ!また買いに行くからっ!いつもお買い物に行くサ○ィの中にあるんだしっ!)

勢いで、2時間で書いちゃったよ・・・。骨組みないし。(←だから下書きしてから書けっつうの☆)