贈り物 明日はあの人のお誕生日。 晴明様から聞いた、大切な日。 プレゼント、何がいいかな? ぐるぐる頭の中で、考えるけど、な〜んにも思い浮かばない。 そうだっ!手料理なんかどうかな♪ これでもお料理くらいはいけると思うのよねっ! でも現代で作っていたものの材料が、こっちで手に入るかなあ?? とういうわけで、炊屋(かしきや)、つまりお台所にやってきました。 「まあ、神子様自らお手を揮われるなんて。」 お端下の者たちはにこやかに出迎えた。 「ごめんなさいね。まず今日はお手伝いさせてくださいね。明日は自分でやりますから。」 あかねはにっこり笑った。 丁度今から夕餉の準備に取り掛かるところだったらしく、早速あかねは小袖姿にたすきをかけた。 そのとき別のお端下の娘が雉を抱えて入ってきた。 「わっ、かわいい〜。これ飼ってるの?」 あかねは雉の側によって、そのつぶらな瞳を覗き込んだ。 「何をいってらっしゃるんですか?今日の夕餉用ですよ。」 あかねの様子にお端下の娘が笑った。 「えっ?」 あかねはまじまじと娘を見た。 娘はにっこりと笑って、くくり紐を見せた。 「これで絞めて、血抜きして、羽をむしって、ワタを出すんですよ。明日は神子様がおやりになるんでしょう?今やってみますか?」 「えええっ?!!」 あかねがびびるそばから、娘がくくり紐を雉の首に巻いて差し出した。 「いやあああああ〜〜〜〜〜!!!やっぱりお料理はご遠慮させていただきますううう〜〜〜!!」」 あかねはそのまま炊屋を飛び出していった。 所詮現代の娘には、生きてる鳥をさばくのを、見ることも、やることもできないのである。 だめよっ!だめよあかねっ!こ、このままじゃいけないわっ! 手料理が無理でも、お裁縫があるじゃない! 今から何か作ろうと思っても、たいした物はできないかもしれないけど、こうなったらお裁縫にするわ。 お裁縫なら、雉さんをさばくこともないから平気よねっ! というわけで、女房さんからお裁縫道具をお借りすることになりました。 「まあまあ、神子様何を作られるんですか?」 女房はにこにこと裁縫道具を差し出した。 「・・・1日で作れる簡単そうなものってないかなあ?」 あかねは女房に尋ねた。 女房はうーんと首を傾げた。 「そうですねえ、単とかなら、私たちでも1日で仕上げますが・・・。」 「ごめんなさい、それは私には絶対無理。」 女房はうーんと顔を顰めた。 あかねも顔を顰める。 どうやら自分の不器用さはこの時代では致命的かもしれないと、多少不安になってくる。 そのとき、詩紋がひょこっと顔を覗かせた。 「あかねちゃん、これから僕、吉祥院天満宮へお守りをいただきに行くんだけど、一緒に行かない?」 と詩紋の言葉にあかねはいいアイデアが閃いた。 「そうよっ!お守りよっ!これなら私でも1日でできるわっ!」 「あ、あかねちゃん??」 「詩紋君ありがとう!気をつけていってきてね!」 あかねが一人で自己完結してしまったので、詩紋は仕方なく一人で出かけていくことになった。 というわけでお守り袋を作り始めたものの、これがなかなか上手くいかないのである。 なにせ、材料は袿を作るのに余った生地、つまりシルクなのである。 一般の女子高生はシルクで手芸なんてめったにしないので、扱い方が難しい。 針は細いし、糸もシルクなので、ふとすると針から糸がするっと抜けてしまうのだ。 「わっ!」 「いたっ!」 「あれれ・・?」 ううっ!雉さんをさばかない代わりに、自分の指をさばいてる気分だわ。 しかし、指を刺し傷だらけにしながらも、なんとか形ができてくる。 で、できたわっ!やればできるじゃないのっ!あかね! 「うっわ〜こりゃひでえ。」 背後から天真の声がとんだ。 「天真くんっ!」 あかねはむっとして振り返った。 と、 きゃああああ〜〜〜!なんでいるのよお! なんと天真と連れ立って部屋に入ってきたのは地の玄武その人であった。 「神子、気が乱れている。大事無いか?」 「な、なんともないですからっ!それ以上近よっちゃだめえ〜〜!」 やばいよっ!せっかくのプレゼントなんだもん、まだ見せるわけには・・・ 「何だこれ?お守り袋のつもりか?」 「あああああっっっ!!」 て、天真君ってばあ! あかねの手にあった、できたばかりのお守り袋は、すでに天真の手の中。 取り返そうにも、天真が腕を高くあげているので、あかねの身長ではお守り袋には届かない。 「天真、やめろ。神子が嫌がっている。」 泰明が天真の手からお守り袋を取り上げる。 「うきゃあ〜〜〜」 お守り袋が泰明の手に渡ったことで、さらにあかねは頭を抱え込む。 と、 天真はあかねのそんな様子に、一人得心したように口笛を吹いた。 「あかね、悪かったな。俺もう行くから。じゃな。」 天真はひらひらと手を振って、泰明をその場に残して、去っていた。 泰明は天真から取り返した、あかねの作ったお守りを見た。 「神子、これは・・・。」 かああっ あかねの頬が染まる。 そのお守り袋を作った生地は、先日泰明から贈られた反物の生地なのである。 あかねの女房達がその反物であかねの袿を作ったので、その余った生地でお守り袋を作ったのだ。 あかねは顔をまっかに染めて俯き、、もじもじと胸の前で指を絡ませる。 「そ、そのっ・・・、明日は泰明さんのお誕生日でしょう?わ、私何か泰明さんに贈り物をしたくて・・・、その・・・。」 あああっ!もうどうしてこうなっちゃうんだろう? ふとあかねが顔をあげると、泰明がじっとあかねの指先を見つめている。 わわわっ! 傷だらけの指先を見られていたことに気がついて、あわてて指先を着物の中に隠す。 が、 それより早く泰明の手があかねの手を掴んだ。 「怪我をしているではないか。何故、このようなこと・・・。」 そのまま、あかねの指先に口付ける。 あかねは、これ以上真っ赤になれないほど頬を染める。 「い・・・一日早いけど、それ・・・受け取って・・・、受け取ってもらえますか・・・?」 消え入りそうな声であかねが言う。 「私のために作ってくれたのか?こんなに指を傷つけてまで?」 だから、傷つけたくてつけたんじゃないんだけど・・・ と言いたいが、あかねは言えなくなってしまった。 なぜなら。 あかねの唇はそのまま泰明の唇で塞がれてしまったから。 「そういえば、お守り袋の中って何を入れるんですか?」 あかねが泰明に尋ねた。 なぜならお守り袋の中は見てはいけないと、そう教えられてきたものだから。 「神社のお札とかが入っていることが多いな。お前の作ってくれたお守り袋には何も入っていないのか?」 「う・・・、だって、今までお守り袋の中なんて、見たことないんだもん。」 「そうだな・・・。」 しばらく泰明は考え込んでいたが、やがてふっと笑みを見せた。 「何も入れておく必要はない。これだけで、あかねの気が感じられる。おおかた、指を傷つけた時に血が少し滲んだのであろう。持っているだけで、温かいお前の気が感じられる。」 あかねはそれを聞いて蒼ざめた。 「う、うそ?本当?」 「お前の想いのこもったお守り袋だ。それだけで何も入れる必要はない。私はこれを肌身離さず持っていよう。」 それは確かに想いはこもってるけど、血の滲んだお守り袋って、なんだかやばそうだよ? 泰明は再び笑みを見せた。 「お前の生霊なら、取り殺されても私は本望だ。」 2001.9.10 ☆あとがき なんだかとりとめもないお話になってしまって、本当にごめんなさい。 このお話は前半(お台所編)は母の経験から。 後半(お裁縫編)は私の経験からそれぞれ、お話を作ってみました。 フリー創作です。よかったらもらってやってください。(; ̄ー ̄A アセアセ・・・ |