他校生


氷帝戦が終わって。
私は跡部に呼び出された。
いつもは無視するんだけど、今回に限って私はYESという返事をしたの。
なぜしたのかって?
それはね…。




氷帝が負けた。
つまり彼らは全国大会に出れなくなった。
跡部は引退するのだ。
そう思ったらなんだか妙に可哀相に思えてきたの。
情なんてもちろんない。
ただ。
手塚部長と戦っているあの必死の跡部に心を動かされたのは間違いない。
ああ、こんなにもテニスに熱くなる人なんだって。
こんなにもテニスが好きな人なんだって。
だからこれできちんと決別しようと思ったの。
私に悪いと思ってないで。
彼はこれからの人だから私なんかに構って欲しくない、と切実に思ったの。

だから私は今日は部活を休んで氷帝学園の近くまで来ている。


氷帝学園に程近い駅の喫茶店で跡部と待ち合わせてある。
ひとりアイスティなんて飲みながら、氷帝学園の生徒達の流れをぼんやりと見つめていた。

「珍しいな、オマエが誘いに応じるなんて。」

背後から声をかけられてのろのろと振り向く。

う、気が重くなってきた。
ちゃんと決別できるのか自信もなくなりそう、この人の前では。

「こんにちは。」

取ってつけたような挨拶をする。
今日は彼の取り巻きもいない。
跡部ひとり。
私の態度に苦笑しながら、慣れた動作で向かいの席に座り、コーヒーなんて頼んでる。
いかに喫茶店の中がエアコンがきいて涼しくてもホットコーヒーなんて、暑苦しい。

「呼び出したのは他でもねぇよ、手塚のことだ。」

跡部はおもむろに何冊かのパンフレットを出した。
すべて病院のパンフレット。

「オマエんとこの顧問も必死になってるだろうが、コレはとりあえず俺からの餞別だ。どこを選んでも間違いない。オマエが俺に言ってくれればそれで最高の治療が受けられるはずだ。」

無造作に差し出されたそれを手にする。
跡部なりの思いやりだね。

「…ありがとう。」

一冊ずつ目を通していく。
場所も手近な場所から遠いとこまで色々だった。

「オマエも…。」

跡部が言いかける。
私は遮るように首を振った。
最高の治療。
粉砕骨折は確かに治るよ。
でもそれは膨大な時間がかかるし、私は全国区プレイヤーの手塚部長のように最高の治療を受けるべき人ではない。

「今日、そのことを言いにきたの。」

私は跡部の目を見据えた。
跡部も私を見る。
強い意志を湛えた彼の目は、見るだけで竦んでしまう。
でも。
今日は。
ちゃんと言う、って決めたから。

「もう、私に対してつまらない罪悪感を抱かないで。」

跡部がわずかに目を細める。

「私の事故は私と、相手の車の運転手の問題なの。それはもう解決してる。あなたが気にすることなんて本当にないのよ。」

うん、ちゃんと言えた。
ちょっとほっとして小さく息を吐いた。
自分でも相当緊張してたんだと思う。
そして。
笑い声が聞こえた。
え?と思って思わず顔をあげる。
跡部が心底おかしい、という態度で笑っている。

「ちょっと!何よっ!」

ヒトが必死で一晩中寝ないで考えてたことを笑い飛ばすなんて!

「くっ、くっ、くっ…、そりゃオマエ、お笑いだろうが。」

跡部はまだ笑っている。
何よ、何で笑うのよっ!
ひとしきり笑ってようやくちょっと息をついたのか、跡部が私を見た。

「オマエ、マジでそんなこと思ってたのかよ。」

?????
何?いったいなんなのよ???

跡部が私の顎を捉えた。

「すっげぇ自信過剰なんだよ、オマエ。」

跡部の言葉にむらむらと腹が立ってくる。
いったい何様のつもりよっ!

「この俺がそんなことでオマエに関わろうとしてると本気で思ってるのか?いやそれともただ単に鈍感なだけなのか?それともこれは計算のうちか?計算だったら褒めてやるよ、この俺を面白がらせたことにな。」

もーっ!言ってることがわかんない。
本気でそう思ってるからこうして会いにきたし、こんなこと言ってるんじゃないのっ!
だいたい、鈍感って何よ、失礼しちゃうわっ!
計算っていったいアナタ相手に何を計算するっていうのよっ?!

「俺様の口から聞きたい、っていうのか。気がつかねぇのは天然か。」

そのとき、ウィンドウの向こうで女の子達の黄色い声が上がっていることに気がついた。
跡部もそれに気がついたらしく、私の顎から手を離す。

「明日の日曜、10時に迎えに行くから用意しておけ。」

私の頭は跡部の展開についていけずただもう、クエスチョンマークだらけ。
いったいなんで明日の10時にアナタが迎えに来るのよ。
って、アナタって私の家知ってるのっ?!

「オマエの家ならとっくの昔にリサーチ済みだ。別に驚くことじゃねぇだろ。これでもダブルスを組んだパートナーだったんだからよ。」

それっ!
なんでいちいちアナタにそれを言われなくちゃならないわけっ?!
私の言いたいことがわかったのか、跡部は私を見据えた。

「明日、教えてやるよ。俺がオマエに固執するその理由をな。」

跡部はそういうとテーブルに置かれた伝票をさっと取り上げて立ち上がり、キャッシャーへと行ってしまう。
私も慌てて残ったアイスティを一気に飲み干し、かばんを持って立ち上がった。

「ちょっと!自分の分くらいは自分で払う!」

慌ててお財布を取り出すとすでに会計を終えた跡部がぴん、と私のおでこを弾いた。

「俺をおもしろがらせてくれた礼だ。楽しませてくれるよな、オマエ。手塚に会ったらよろしく言っといてくれ。」

むっかーっ!!
なによ、いったいなんのよっ!!
私は跡部をおもしろがらせたつもりはないわっ!

「気をつけて帰れよ。俺様のファンがなにしでかすかわかりゃしねぇからな。」

跡部の言葉にさっきウィンドウ越しに見えた氷帝の女の子達のことを思い出す。
ファンの子に睨まれるのは青学でもしょっちゅうあることで、氷帝もうちと変わらず(こんなヤツだけど)跡部にもファンクラブがあるらしい。
まあ、跡部の場合手塚部長とかと違ってファンサービスやスタンドプレーは華やかだから、ファンも楽しいとは思うけど。
そう思うとさっきのアレは私たちがどうあれ、ファンの子には衝撃的シーンかもしれない。

「気をつけて帰るわよ!あなたもファンの子に恨まれないようにねっ!」

噛み付くようにそれだけを言うと、くるっと背を向けた。
そしてご馳走になったお礼を言ってないことにすぐ気がついて、またくるりと振り返る。

「どーもご馳走様でしたっ!」

それだけ言うとまたくるり、と背をむけて喫茶店のドアを開けた。
むっとするような夏の日差しが照り返してくる。

「忘れんなよ明日10時だからな。せいぜいめかしこんでおけよ、ってオマエ、めかしこめるような顔じゃねぇか。」

かっちーんっ!
もう、頭にきた。
よくも言ってくれたわねぇっ!!
見てらっしゃい明日!
絶対驚かせてやる、絶対に!
きっと睨みつけると跡部が立ち去るとこだった。
片手で手をひらひら振っている。
私ねぇっ、バカにされるのが大っキライなのよ。
ちきしょー、明日跡部をぎゃふんと言わせてやる、絶対言わせてやる。

でもって跡部の真意を問いただすのよっ!

私は急いで携帯を取り出すと由美子さんに電話をかけた。







不二家に行ってインターホンを鳴らすと由美子さんが出迎えてくれた。

ちゃん、こんにちは〜!」

由美子さんが嬉しそうににっこり微笑んでくれる。
そう、由美子さんと私はとっても仲がいい。
由美子さんは弟二人持ちなので、妹の存在が欲しかったみたいで、私を妹のように扱ってくれる。

「足、もう大丈夫?」

由美子さんが私の足を心配そうに見た。

「うん。もう平気。まだ湿布してるけど痛みはほとんどないもん。」

私は足をあげて振って見せた。

「ほらほら、また怪我するわよ。ところで今日は部活じゃないの?周助は部活のハズなんだけどな。」

由美子さんがリビングに通しながら首を傾げる。

「えへ、私は今日休んだの。」

私は頭をかきながら苦笑いをした。
だってこんなことまずないもんね。

「そっか、息抜きは必要よね。うちの弟たちはほんとテニスばっかりで、週末なんていつもいないのよね。人間ときには息抜きが必要なのに。」

リビングにかばんを置いて、由美子さんと一緒にキッチンへ入る。
一緒にお茶の用意をしながら他愛もないおしゃべりをする。

「おばさまはどうしたの?」

そういえば今日はおばさまの姿を見ない。

「お父さんのとこ行ってて、今いないのよ。帰国は来週かな。」

由美子さんがケーキを切り分けながら答える。
ありゃ、そうだったんだ。

「じゃあ、由美子さんに頼んどこうかな。これから暑さが厳しいから夏バテしないような食事メニューにしてあげてくださいね。何しろ不二君、S1だからへばってもらったら困るもん。」

私の言葉に由美子さんがおやっという顔をする。

「S1ってあの大人びたコじゃないの?」
「ええ、手塚部長は入院するから…、だから不二君がS1なんですよ。」
「それは大変。オーケー、食事に関しては私にまかしといてね!」

と由美子さんがどん、と胸を張った。

それもちょっと、なんだけどね、なんて思ったりして。
何せ由美子さん、お料理が好きなのはいいけど、新しいもの好きだから何が並ぶかわからない恐るべし不二家の食卓なんだから。

「あ、そうそう。ちゃんが着れそうな洋服を出しといてあげたわ。あとで私の部屋に行きましょ。」

私は思わず心の中でガッツポーズをとる。
見てなさい!跡部景吾、おしゃれなカッコで驚かせてやるんだからっ!





由美子さんの部屋で二人でファッションショーをしていたときだった。

「きゃー、この服すてきー。」
「ねぇねぇこっちもいいのよー。このスカートとあわせてね、ほら、コサージュつけてこっちの帽子を被ると素敵なの〜。」

と玄関のチャイムが鳴った。
二人してはっと我にかえる。
窓の外はもう真っ暗で、すでに夜を迎えていた。

「ただいま…、お客様かな?」

と声がして私と由美子さんはふたりしてまじまじと顔を見合わせる。

「周助、帰ってきちゃった…。」

あはは…、部活休んだのにマズ…。
といってもこっそり帰ることもできるわけではなく。
仕方なく由美子さんと二人で階下へと行く。

「お帰り〜、周助。」
「不二君、お帰りなさいー。」

不二君の顔がきょとんとする。
そりゃそうよね、部活休んだ私がここにいるんだから。

「用事って由美子姉さんとだったの…?」

じーっと不二君に見つめられてはっとする。
わっ、私由美子さんの洋服を借りてそのまんまだよ。

「え、え、え、えーと…。」

あー、ごめんなさい、これじゃ遊んでるわよね。
みんな関東大会のために必死に練習してるのに私ひとり遊んでて。
あううう。
ほのかに不二君の目が見開いて笑顔が消えてます…。
怒ってるよね、うー。

「あ、あのさっ!周助、ちゃんにあげる服を選んでて時間を忘れちゃって。ご飯用意してないのよ。ちゃんを送ってくからついでにみんなで食べに行こう!」

由美子さんが不二君の様子に慌てて割って入る。

「…ふーん…。、明日どっか行くの?部活休みだし。」

げっ、鋭い!
上から下までじーっと見つめられて、値踏みされているようで私はどうにもいたたまれない。

ちゃん、明日デートなんだよねっ!だからよ、だからっ!周助。」

由美子さんが慌てて取り繕ったように言う。
うぎゃー、やめて!
で、デートってなんですかっ?!
単に跡部と会うだけじゃないのっ!
っていうかそんなこと不二君に言わないでーーーっっ!!!

「…デート?」

あうっ!
目が、目がっ、目がっ!!!
怒ってます、マジで怒ってます!!!

「ち、ちがっ…、」

あああ、あらぬ誤解ですぅ…。
このままじゃ私、デートに浮かれて部活休んで服選びに来たようなモンじゃないのぉ〜。

「誰?相手?」

わわわわ。
い、言えない、言えないよっ!
その尋問するような口調!
あ〜、なんでこんなに保護者面するのかなぁ。
まるでこれじゃ娘の心配をする父親じゃないのよ。

「え、えーと氷帝の跡部君だっけ?」

うぎゃーっ!
由美子さん、それはナ〜〜〜〜シングッ!!!!!

その言葉に不二君は目を見開いた。
あうっ、こ、怖いっ!
怖すぎるっ!!

「…ふ〜ん、跡部と、ね。」

ふう、と不二君は息を吐いた。

「ボク、着替えてくるから。を送ってく準備しといて。姉さんの昔着てた服、忘れずにね。」

さりげに姉、由美子への皮肉を含ませて不二君は二階の自室へと行ってしまった。

はぁ〜っ。

由美子さんと二人、大きく溜息をつく。

「私、もしかして地雷踏みまくり…?」

由美子さんの溜息まじりの言葉に私はもう笑うしかなかった。
あんな怖い不二君を見たの、初めてだよぅ。




なんだかんだと。
由美子さんと不二君とで緊張感溢れる食事をして家まで送ってもらって。
自宅に帰りつくと今日一日の出来事があまりにもたくさんでどっと疲れが出てしまった。






そして次の日。
疲れてる、というのに朝早くから起きて軽めの化粧までする。
といっても頬紅を薄く、アイラインを描き、眉を描いて、薄付きのリップをつけて完成。
髪型だってちょっと凝って見る。
ヘアカタログなんて見ながら、簡単そうで、でも凝った風な髪型をつくって。
昨日由美子さんがくれたちょっと大人めのワンピースに袖を通す。
どっちかっていうと高校生とかの着るようなので、私にはちょっと早いぐらいだけど、これでちょっとは大人っぽく見えるかな。
部屋の鏡を見ながらチェックする。
うん、どこからみても中学2年には見えないわね。
他にも可愛い服をもらったけど、それはちょっと着れないの。
中学生ぽいカッコなんだもん、私好みの服だけど。
跡部にあんなこと言われたからね。
ど胆を抜かしてやるわっ!

9時30分。
玄関のチャイムが鳴った。
うん、ちょっと早いよね。
跡部は10時に迎えに来るって言ってたけどな。

「はーい、あらー、久しぶりね〜、周助君。」

とママの嬉しそうな声に思わず顔を上げる。
不二君っ?!
あわてて階下へと降りるとちょうどリビングに通すべく、廊下をママが先導している最中だった。

「へぇ、私服のって意外と大人っぽいんだね。」

ぎゃっ!
お、親の前で言うかぁ?!

「支度もできてるみたいだし。おばさん、今日一日を借りてもいいですか?」

なに〜〜〜〜〜〜〜〜?!

私がものも言えずに口をぱくぱくさせていると、ママは何を思ったのかにっこり笑って、

「ええ、どうぞ♪」

なんて言ってるし!

「じゃ、用意の続き早くしてきて。もう一人来るんだろう?」

はっとして廊下の時計を見上げる。
時刻は9時40分にさしかかるとこ。

「あら残念、デートじゃなかったのね。」

ママっ!!

「じゃ、お言葉に甘えて今度はデートにしようかな。そのときはまた迎えに来ますね。」

なんて何をにこやかに言ってるのよっ!!

もう泡を吹きそうなぐらい目まぐるしく色んなことが起こって、跡部の話なんてもうどうでもよくなってきた。
この先私はどうなるのでしょう…

すごすごと自室に戻ってバッグの中に必要なものを詰める。

あまりの衝撃でどうしても動作がのろくなってしまい、すべての用意が終わって不二君がもてなされているリビングへ来た頃にはすでに10時5分前。

「用意できたね。じゃ、出ようか。」

不二君に引っ張られるようにして玄関を出ればそこに丁度跡部が来たとこだった。
跡部は最初目を見開いてこの展開に驚いたようだったけど、にやっと笑うと不二君に声をかけた。

「なんだ…、おまえらデきてるのか?」

ち、ちがうっ!
それは違うっ!!

もういったい何がどうなってるのかわからず、ただ跡部と不二君の顔を見比べるばかり。

跡部が不敵に笑う。

「まあいい、不二が一緒でも。車を待たせてあるから乗りな。」

跡部に言われるまま、黒塗りのベンツに乗る。
う、運転手さん付きですか。
すごすぎ…。
改めて跡部がお金持ちだと認識させられるわ。
終始無言のまま、気まずい雰囲気の車内。
ああ、気まずい。
こんなんだったらこの大人っぽいワンピース、着なきゃよかった。
これじゃ跡部にも不二君にも誤解を与えまくってるよ。
うう、薄いとはいえ、化粧をした顔すら恥ずかしい。

「まさかそんなカッコで来るとはな…。マジ、オマエって飽きねぇヤツ。」

跡部がさもおかしいと言わんばかりに笑う。
不二君がちらり、と私を見る。
ああ〜、怖い、怖いですっ!

「制服のほうがよかったのかな?跡部。」

不二君の言葉、なんだか微妙に刺々しいよ。

「制服なんかナンセンスだろ。まあ、には制服のほうがお似合いかもな。」

跡部の言葉も刺々しい。
微妙に子供っぽいくせに背伸びしてる、と言外に二人とも言ってるし。
自分でもわかってるけど傷つくよ、くすん。
ああ、この先いったいどうなるんだろ。
神様、助けて…。

やがて着いた先はテニススクールだった。
う、今日低めとはいえヒールの靴だからコートには入れない。
いったい何の用なんだろ…。
つかつかと跡部は先に歩いてスクールの奥へと行く。
あ、ここ跡部と練習してたスクールだ。
スクールには室内練習場、ショップ、レストラン、トレーニングジムとフルコースにいろんな施設が併設されている。
そのまま一番奥のレストハウスへ向かう。
喫茶室にもなっていて、ウェイターが席に案内してくれる。

「こんなとこまでわりィな。ここが一番落ち着けるところだからよ。」

運ばれてきたコーヒーを跡部は一口飲む。
円形のテーブルに私たち三人、緊張感溢れて座っているのはちょっとなんともいえない状況。
日曜日のせいか、レッスンに来ている人たちは多く、なのにこのレストハウスだけ私たち以外、ウェイターが一人いるだけ。
ってことはもしかして貸切ですか?

は鈍感だからちゃんと言った方がいいよ、跡部。」

不二君はおもむろに口を開いた。

「気がついてないのは本人だけなんだからさ。」

ちょっと待って。
不二君、鈍感ってなによ、鈍感って!

「大した自信じゃねぇの。そういうオマエはどうなんだよ、不二。」

跡部がにやにや笑って不二君を見る。
あのー、私、話の展開についていってないんだけど?

「さあ…?ご想像におまかせするよ。ただ心配してるのはボクだけじゃないってこと。たまたまボクは昨日知っただけ。」

????
ごめんなさい。
やっぱりわからないです。
っていうか私が跡部に呼び出されたんだけど?
その私が話しについていけなくて、突然現れた不二君とは会話が成立してるってどういうことでしょう???

「はん。心配…ね。」

跡部がちらり、と不二君を見る目が鋭い。

「まあ、どうでもいいことだけどな、俺には。」

跡部は背もたれに身体を預ける。
そして私をじっと見た。
その視線が今までにないほど真剣さを孕んでいて、私はどうしていいかわからず俯く。

「教えてやるよ、。」

跡部がおもむろに立ち上がった。
そしてくいっと私の顎を捉える。
もう、コイツ、何回こういうことするのかしら。
私はちゃんとアナタの目を見て話すわよっ!

「何…!!」

掠めるように唇に何かが触れた。

「…跡部っ!」

不二君が驚いてがたんと立ち上がる。
私は何が起こったかわからずただ呆然とされるがまま、というか硬直したままだった。

「この俺がオマエに悪いとでも思ってるのかよ。オマエを見たときからオマエは俺のモンにするって決めたんだよ。」

跡部が皮肉たっぷりに囁くように言う。
わずかに掠れた跡部の声は、今までにないくらい真剣さを孕んでいた。
私はもう何がなんだかわからずでその場から動けずに呆然とする。

「これでわかったか?」

跡部はそういうとそのままレストハウスを出て行った。

。」

不二君が私の肩をそっと抱く。
でも私はいまだ硬直が解けなくて。

。」

もう一度不二君が私の名前を呼んだ。

「ごめん…。」

なんで不二君が謝るの?
私、私は…。

「昨日、跡部と会う、って聞いてこうなることは想像できたのにを守れなかった…。本当にごめん…。」

こうなることって?
いったいどういうこと?

「跡部はのこと多分一目ぼれしてわざわざダブルスを組むように仕向けたんだ。そして事故のこと…。手塚から聞いてやっとわかったんだ。跡部が事故を理由にしてのこと…。」

私は思わず首を振った。

「跡部と約束してるって聞いてすぐにぴんときたんだ。ごめん、だから今日来たのに…、本当にごめん。」

不二君の言葉がすごく遠いよ。
私って本当にばかで鈍感だ。
なんで気がつかなかったんだろう?
どうして跡部の言葉や態度を誤解してたんだろう?
不二君は気がついていたんだよね。
なのに。
私、本当にばかだ。

気がつかなくて。
まわりに心配かけて。
ごめんね、不二君。
こんな役まわりさせて。
ごめんね、跡部。
気がつかなくて。
私は本当に大ばかで情けなくて…。