蝶戀歌4 孫策と連れ立って長江河畔へと出る。 「おまえを連れて寿春城を出なかったこと、本当に悪いと思ってる。」 孫策はぽつりと言った。 あの日寿春城で孫策を見送った日のことが思い出される。 は小さく頭を振った。 「あのときの袁術軍の力では無理なことだわ。私まで連れて出たら間違いなく疑われてあなたまで危険になるところだったんだもの。」 の言葉は真実まことのものである。 丹陽へ帰りたかったのは事実であるが、誰かを犠牲にしてまでとは思っていなかったのだから。 「周瑜にさんざん恨みごとを言われたよ。」 孫策は苦笑した。 は言葉の意味が掴めなくて小首を傾げる。 「なんで?」 の問いかけに孫策がまじまじとを見る。 「なんでって、そりゃおまえを連れて寿春城を出なかったからに決まってるだろ。」 今度はがまじまじと孫策の顔をみる。 が再び孫策に聞く。 「だからなんで私が寿春城を出なかったことを周瑜が恨むのよ。」 孫策は天を仰いだ。 「本当にわかんねーの?周瑜がどれだけおまえに惚れてたかってこと。」 は孫策の言葉が飲み込めなかった。 今まで周瑜がそんな素振りを自分に見せたことなど一度としてない。 いつもいつも冷静沈着で、冷たい横顔しか思い浮かべることができない。 あの冷たい周瑜が自分を好きだったというのだろうか。 「やっぱり嘘よ。私、思い当たる節もないし、第一周瑜はあなたの奥様の妹と結婚したじゃない。」 江東の花と称される大喬。 その妹である小喬は、江東の蝶と呼ばれ姉妹揃っての美人として有名である。 二喬を手に入れた孫策と周瑜のことは巷でも有名で、汝南を一人で旅しながらも噂として流れてきた。 「あれはおれが無理やり娶らせたんだ。おまえと一緒になるのは万にひとつの可能性もないと思ったからな・・・。袁術が曹魏に大敗したとき、は魏へ連れ去られたと俺たちは確信したんだ。袁術はおまえを魏に売るつもりだったのだから。」 孫策の言葉には驚いて顔をあげた。 「それはどういう・・・?」 孫策はじっと川面を睨みつけた。 そして重い口を開いた。 袁術が何故を手元に欲しがったのかその理由を。 自身気にしていなかったことではあるが、その美しさを養父呉mは常々よく人に話していた。 それをあのときすでにその繁栄に翳りの兆しを見せていた袁術がの存在を知ったのである。 人質として差し出すように呉mに迫り、手に入れて色好みの曹操にの存在を知らせ、何かあったときはを差し出す算段を考えていたというのだ。 だから袁術は孫策がを連れて寿春城を出ることを頑なに反対したのである。 袁術が破れた後、袁術旗下の武将達は散り散りになっての行方もわからなくなったとき、孫策と周瑜がは魏へ連れ去られたと思い込んでも仕方がない状況だったのっだ。 だから孫策は周瑜にのことは忘れろと迫った。 自身も負い目を感じて、自分の妻の妹を嫁に迎えるようにと命令した。 義兄弟とはいえ、主君と臣下の関係である。 逆らえなかった周瑜は小喬を娶ったのだった。 周瑜はを探すように個人的に斥候まで魏に潜ませていた。 しかし魏にもいない。 戦死したのか、それともどこかで野垂れ死んだのか。 女が一人で生きて行けるほどこの乱世の世は甘くはない。 戦の度に略奪、陵辱はあたりまえのように行われていたからである。 「まさか劉備のもとにいるとは思わなかったな。」 孫策はからからと笑った。 「呉に帰ってこないか?小喬は正妻じゃない。周瑜はおまえ以外の正妻を迎えるつもりはないんだ。」 孫策の言葉には即座に首を振った。 故郷を懐かしむ気持ちは確かにある。 孫策や孫権、孫尚香、そして周瑜ですら懐かしいと思う。 けれど不思議と帰りたいという気持ちがわかなかった。 頭の中に不意に趙雲の微笑みが浮かぶ。 ――私は・・・。 は目を閉じた。 ――趙雲が好きだから・・・。 「そうか。でも、おまえは俺たちの妹だし、今でも大切に思っている。だからおまえが帰りたくなったらいつでも帰ってこい、いいな?」 孫策はの頭にその大きな手を乗せた。 そしてそのまま歩み去っていく。 は孫策を見送った。 不意に涙が出そうになる。 久しく触れていなかった家族の愛情を感じて。 は顔をあげた。 空には満点の星が輝く。 時折、星屑のような弱い光の星が一瞬流れていく。 戦の起こる前触れだというのでもあるかのように。 「。」 不意に声をかけられ、は驚いて振り返った。 そこには周瑜が立っていた。 「周瑜・・・。」 先ほど孫策から周瑜の話を聞かされたばかりである。 は思わず赤面しそうになって俯いた。 「河風にいつまでも吹かれていると風邪をひく。部屋に案内しよう。」 周瑜はそういってくるりと営寨のほうへと行ってしまう。 はあわてて周瑜のあとを追った。 営寨を抜けて裏手にまわると一件の瀟洒な屋敷があった。 松明が赤々と灯され、護衛の兵たちが大勢いる。 どうやら孫家の人間はここで起居しているらしい。 そのままはひとつの客間に連れてこられた。 扉の前で周瑜がに向き直る。 「少し話がしたい。」 周瑜の言葉には眉を顰める。 どうにも楽しい話でないことは、ここまでの間周瑜が一言もしゃべらないことから(もとからしゃべるほうではないけれど)、容易に想像ができる。 「疲れてるから・・・。」 実際ずっと長江の波間に揺られていて、今日こそ地の上で寝ることができるかと思うとは正直早く臥牀に横になりたかった。 しかし周瑜の目は厳しく、は仕方なく周瑜を中に入れる。 「何故ここへ来た?」 開口一番、周瑜が苦々しげに呟いた。 そしてに詰め寄る。 は驚いて後ずさりした。 壁と周瑜にはさまれ、は逃げ場がなくなる。 そんなを追い詰めるように周瑜がを睨みつけながら再び問う。 「今更ここに何しに来た?」 は恐ろしくなった。 周瑜は佩刃している。 柴桑に来るときに自分は周瑜に斬られるかもしれないと思ったことが現実になりそうで、は青ざめた。 知らずは腿にある短檄へと手を伸ばした。 しかしそれを周瑜がの手首を掴んで遮った。 「刺客でも気取ってきたか、この雌猫が。」 周瑜の揶揄する言葉には怒りで頬を染めた。 不意に周瑜がを抱きよせた。 は突然の周瑜の行動に理解できず、そのまま周瑜の胸のなかにおさめられる。 「許さぬ。この私を愚弄した諸葛亮も、そなたも!」 周瑜は苦々しげにつぶやくと、の結った髪を解いた。 飾られた歩揺の簪が落ちる。 そして周瑜は垂れた黒髪に手を入れ、ぐっと乱暴な手つきで引っぱった。 「きゃ・・・!」 髪をひっぱられて無理やり顔を上げさせられたその瞬間、周瑜が乱暴に唇を重ねてきた。 は驚いて身を硬くする。 不意に周瑜に掴まれていた手首が自由になったかと思うと、、周瑜の手がスリットから腿をなで上げた。 腿に潜ませた短檄を周瑜が手にする。 それをそのまま周瑜が部屋の片隅に投げつけた。 周瑜の行為に驚きながら、短檄を取り上げられては怖くなる。 しかし乱暴とも思えるその行動の割には、重ねられた口付けはひどく優しかった。 は必死に離れようともがくが、所詮女の力では叶わない。 それよりも身の危険を強く感じた。 必死になってもがき、足で周瑜の脛を蹴った。 唇が解放されは周瑜を睨みつけた。 「このままおまえを殺してやりたいほどだ。」 周瑜が目をぎらぎらとさせてを睨みつける。 も負けじと周瑜を睨み返した。 周瑜がの身体を攫う。 あっと思う間もなく、は臥牀に身体を放り出された。 「いやっ!」 は反射的に跳ね起きようとした。 それを制するように周瑜がの身体にのしかかる。 首筋に痛いほどの口付けを受け、は叫んだ。 その時、不意に周瑜の身体から力が抜け、周瑜が咳き込んだ。 はここぞとばかりに周瑜を押しのけ、臥牀から転がり落ちるように離れる。 しかし周瑜はさらに咳き込んで、その場を動こうとしない。 不審に思ったがそっと周瑜を覗き込んだ。 目に入ってきたのは鮮血。 「周瑜っ!?」 は思わず周瑜の肩を掴んだ。 肩にかけられたの手を周瑜がかなりの力で掴む。 「誰も・・・呼ぶな・・・。」 は懐にあった布で周瑜の口元をぬぐう。 周瑜は肩で息をしながらもどうにか咳が静まった。 そしてそのまま臥牀に仰向けに転がる。 が血のついた臥牀の布をひっぺがす。 「誰にも、話すな。伯符にもだ。」 しぼりだすような声だった。 「いつからなの?」 が血のついた布をまるめる。 「いつだったかな・・・。私も忘れた。」 は転がる周瑜を見遣った。 丹陽で別れたときから比べると精悍さの増した顔つきなのに、先ほどの喀血で血の気が失せたのか青白い。 「誰かにこのことを言ったならば、そなたを殺す。」 再び周瑜が言う。 よほど周囲に自分の病気がもれないように今まで気を使ってきたのだろうか。 そう思うと不意には周瑜が哀れに感じた。 「孫策様には言うわ。でないとあなた、先が短いわよ。」 が部屋のすみに投げつけられた短檄をふたたび腿に潜ませる。 「ならば私はおまえを殺さねばならぬ。」 周瑜がふたたび殺すという文句を言う。 しかしにはそれが空しく響く。 は周瑜の側へと寄った。 「医者には診せたの?」 は周瑜を覗き込んだ。 呼吸は少し落ち着いたようである。 周瑜がぎらぎらとを睨みつける。 しかしはそれに構わず、周瑜の額に手をのせた。 ひやりと冷たい周瑜の皮膚の温度にが眉を顰める。 周瑜がの手を掴む。 「誰にも言わぬと誓え。でなければ劉備の陣営にそなたが如何にふしだらな女か噂を流す。私との婚約を破棄しながらそ知らぬ顔で同盟を要請しに来た恥知らずとな。」 周瑜は別の面から口封じをしようとする。 そんな周瑜には悲哀を感じずにいられなかった。 「ねえ、お医者様に診せて。これから大切な戦いをしようとしているのよ。」 周瑜は不意に起き上がった。 先ほどまでの様子とはうって変わっている。 「誰にも言うな。」 周瑜は短く命令口調で言うと部屋を出て行った。 扉が閉められると同時に閂の下ろされる音がする。 ははっとした。 慌てて戸を引こうとするが扉には閂が下ろされてびくともしない。 「周瑜?周瑜っ!?」 がたがたと扉を叩く。 監禁されたのだった。 何度も周瑜の名を呼ばわるが応答はない。 すでにこの場を立ち去ったようである。 はくるりと部屋の中を見回した。 明り取りの小さな窓が壁の上方についているだけで、窓はひとつもない。 壁には豪奢な織物がかけられ、灯火があちこちに灯され部屋を明るく照らしている。 は溜息をついた。 軟禁されたとはいえ、隙をついて脱出することは十分可能のようであると判断する。 心配なのは諸葛亮だった。 彼は智謀智略に長けているとはいえ、武人ではない。 何かあって襲われでもしたら・・・と考えるが、とりあえず呉が魏との開戦に踏み切ることが決定している以上、今すぐ諸葛亮を殺すようなことはしないであろう。 は臥牀に横になった。 緊張の糸が緩み、瞼が重くなる。 頭の中では孫策、周瑜、趙雲が現れては消えていく。 思った以上に今日は色々なことがあって、は瞳を閉じて眠りについた。 朝、明り取りの窓から差し込む、頬をくすぐる柔らかな朝の光では目が覚めた。 周囲に人の気配を感じてははっとして起き上がる。 久しくまともな臥牀で起居していなかったせいか、それとも孫策や周瑜に久しぶりに会って、戦いを知らなかった頃の平和だったあの頃に戻ってしまったかのような錯覚を覚えたのか、周囲に人がいても安心しきっていたようだった。 「おはようございます。」 若い男の声である。 はぎょっとして臥牀を仕切る紗を開けた。 紅い上着も目に鮮やかな青年が立っている。 は一瞬我を忘れてぼんやりと青年を見遣った。 そして次の瞬間、不意に羞恥を覚えた。 「きゃぁぁぁぁぁっ!…あぁっ…?」 開けた紗を勢いよく閉めて、両手で身体を抱きしめ、あらん限りの声で叫ぶ。 と同時に手近にあった上着を身体に巻きつけた。 しかし青年は一瞬眉をあげただけで、の様子に動じる風もなく、慣れた手つきで朝食の準備をしている。 その様子には面食らう。 不意に大きな音をたてて扉が開いた。 「朝からうるさいぞ、。」 扉を開けて入ってきたのは周瑜である。 白皙の美貌を眉間の皺で汚し、のいる臥牀のほうを睨みつける。 「周瑜っ!勝手に女性の部屋に入ってこないで!」 はいかにもうっとおしげな周瑜の態度にむっとして食って掛かる。 しかし周瑜はの様子にまったく頓着しない様子で部屋にいた青年にあれこれ指示を与えている。 周瑜の指示を受けて青年はそっと部屋を出て行った。 「周瑜っ!」 が紗の隙間から顔を覗かせて、ぐっと周瑜を睨みつける。 「囚われの身だということを忘れるな。伯符の命でおまえと諸葛亮を客人として扱うが、その内実をよくよく理解しておけ。」 周瑜の言葉にがぐっとなる。 昨夜監禁されたという事実をはようやく思い出す。 「さっきのは陸遜だ。営寨ゆえ女性の身の回りを世話できるようなものはおらぬ。何かあればあれに言え。」 は陸遜という名を聞いて昨夜、館駅にと諸葛亮を迎えに来た青年であることを理解する。 利発そうな青年武将だった。 ということはの身の回りの世話というよりは、見張り役といったところであろうか。 「営寨内をうろうろされては困る。殺気だった兵士たちが女をみれば何するか保障はできかねるからな。」 周瑜が事務的に言う。 「諸葛亮様はどこに?私の任務は諸葛亮様の護衛なのよ。諸葛亮様のもとへ行かせて。」 の言葉に周瑜が鼻で笑った。 「館駅にいる。戦いが終わるまで諸葛亮にはここ呉にいてもらわねばならぬ。おまえと諸葛亮を一緒にさせない。そのかわり諸葛亮の身の安全は保障する。諸葛亮からも承認を得ている。」 はきっ、と周瑜を睨みつけた。 諸葛亮と引き離されたのは自分のミスではあるが、諸葛亮がそれを認めている以上、にはどうすることもできなかった。 「同じことを諸葛亮様にも言ったのね。」 昨夜の周瑜といい、今の周瑜の物言いといい、は気に入らなかった。 確かに呉国丹陽の出身で、幼い頃から孫家一族とは懇意にしてきたが、色んなことがあって自分の意思で劉備に仕えている自分を全否定してくる周瑜にはいらいらさせられる。 つい自分の立場も忘れて刺々しい物言いをしてしまう。 「自分の立場も忘れていい度胸をしているな。これは警告だ。今度私を怒らせたらおまえも諸葛亮も命はない。」 ははっとして口元を押さえた。 「ここでは丁重にもてなそう。だがさっきのような態度を再びとってみろ、諸葛亮も、劉備も孫呉の敵ではないぞ。魏とともに劉備を討つ。」 周瑜はそれだけ言うと立ち去った。 は溜息をついた。 どうも昔馴染みの人間にはつい甘えが出てしまうのかもしれない。 しかしは内心笑っていた。 周瑜を怒らせることが自分にできるという事実に気がついて。 かつての周瑜は感情を表面に出すような人間ではなかった。 しかし今の周瑜は自分に対して驚くほど感情的になっている。 「・・・そう。」 はすべてに納得した。 諸葛亮が何故を呉の陣営に連れてきたのか。 周瑜の智謀智略は侮れない。 その周瑜を激昂させ、周瑜を狂わせ、手玉に取る。 諸葛亮がを指名して護衛につかせた理由に気がついて、は小さく溜息をついた。 「くるくると表情が変わりますね。」 は顔をあげた。 目の前には先ほどの青年、陸遜が立っている。 周瑜の言いつけをこなしての世話をするべく、いつのまにやら戻ってきていたらしい。 卓子にはすでに朝食が並べられて湯気がたっている。 「戦場ゆえ大したものはご用意できませんがどうぞ。」 自分に注意を向けてくれて嬉しそうに陸遜が手を差し出した。 そんな陸遜をはまじまじと見つめた。 まだ若い、自分とさして年のかわらないであろう青年武将ではあるが、育ちのよさそうな上品さが見受けられる。 「陸遜殿、でしたっけ。」 は陸という姓にひっかかりを覚え、ゆっくりと確認するように目の前の青年に訊ねた。 「覚えてくださったようで嬉しいです。ええ、私は陸遜、字は伯言と申します。」 青年はにこやかに優雅な手つきでにお茶を差し出す。 はそれを受け取り、さらにまじまじと青年を見上げる。 「陸康殿の一族に連なる方…なのですか?」 は袁術のもとにいたとき、孫策が陸康という廬江太守を討ったことがあることを思い出した。 陸康は呉郡の出身で、袁術と仲違いをしたことから袁術が孫策に命じて陸康を討たせたという経緯がある。 つまり陸家によって孫策は仇敵といってもよい。 孫策の討った陸家に連なるものが呉の陣営にいることに不信を抱いたのである。 「陸康は私の父の従兄弟です。陸康殿亡きあと、一族の中で一番年長であった私が陸家を取り仕切ることになりました。確かに傍からみたら孫策殿は私の仇敵とも言えるかもしれませんが、私と陸康殿はあまりうまくいっておらず、陸康殿亡き後、陸家再興を孫策様より勧められこのように孫策様旗下の一武将としてお仕えしています。」 は大きな目をさらに見開いた。 「あなたの話も孫策様よりいろいろお伺いしておりますよ、殿。」 陸遜はにっこりと微笑んだ。 「呉郡丹陽太守の養女殿ですよね。袁術殿のもとに孫策様とともに身を寄せていたとか。私もやはり幼い頃ではありますが袁術殿のもとにおりましたし、生まれは呉郡は呉県、年も同じ十七と聞いております。どうぞお心安く接してくだされば幸いです。」 は驚いた。 陸康が一族を呉郡に返したのと時を同じくして自分が袁術のもとに身を寄せたのだから、陸遜とはすれ違いではあるものの、浅からぬ縁を感じる。 孫策はあまり戦場での人間関係をに語らなかった。 袁術のもとにいるとき、孫策が袁術の命で戦にでかけてほとんどと接することがなかったからともいえるが、それでも女に戦の起こった背景を話しても仕方がないと思っていたのかもしれない。 陸遜から聞く孫策のことはには初耳だった。 自分の知らない呉がそこにはあった。 すでに呉は自分の故郷ではあるものの、自分の国ではないことをは感じる。 「さあ、朝食をどうぞ。」 陸遜の言葉にははっとして卓子の上をみる。 戦場とはいえ、きちんと盛り付けられた朝食に孫呉の強大さを感じずにはいられない。 はのろのろと箸に手を伸ばした。 |